逃げの向日葵【潤いつ】

【潤いつ小説】
全年齢向けです。
一路が逃げる(失踪する)話です

年齢はアニメ本編(原作では明言されていないので)と同じ、風見くんが18、一路くんが21歳の設定です











俺は風見潤のことが好きだ。

友情的な意味ではもちろん、いつの頃からだろうか、恋愛感情を持っている事に気づくのはそう遅くなかった。

専門学校に一緒に通っていたあの頃からその気持ちは変わらなかった。

しかし、この気持ちにはずっと蓋をしていた。

いくら俺が風見のことを恋愛対象として見ていても、風見にとって俺はただの上司や友人であることに代わりはないし、そもそもそんなことを考えることすらしないと思うからだ。

だかある夏の日、ついに俺の気持ちがバレてしまった。きっかけは些細なことだった。

それは普段と変わらない熱帯夜。いつものように伝票整理をしていた俺と板金の仕事を終らせ一足早く引き上げて自分の時間を過ごしていた野呂、もうノルマを終えている筈なのにエンジンを夢中で弄る風見。

ただ一つ変わっていたことはその日は珍しく俺が調子が良かったので寝落ちをしていなかった。いつもなら机で寝てしまい朝になっていることが多いのに。

仕事を終え、汗を流す為風呂へ入り、一服しようとタバコを取りに事務所へ戻ると、風見がエンジンチューンを終えていつものツナギをきたままソファで眠っていた。長い間色々な所をいじくりまわしていたので手や体は汗やオイルや煤に塗れていた。


「おい、風見起きろ」


肩に手をかけ揺するも起きない。それどころか幸せそうに眠りこけている。

その瞬間、不意に俺はあまりにも風見の寝顔が可愛らしいものだからか魔が差してしまい、とんでもないことをしでかしてしまった。

風見を愛しく思うあまり、気がつくと俺はキスをしてしまっていたのだ。

今まで女の子ともしたことなかったのに。

夏の暑さが俺を暴走させたような気もした。

ただそれだけならよかった。しかし、俺がキスをしている最中に風見は目を覚まし、ただ 俺の事を目を丸くしてみていた。

もう弁解の余地はない。

絶対に風見に気持ち悪いとか嫌だとか思われた。そうとしか思えない。

だからあのとき何も言わなかったのだ。

俺は怖くなり、風見に何か聞かれる前にと思い、荷物をまとめてメカドックを後にした。

次の日、変装した俺は風見に追いかけられる前に病気になったという嘘の書置きをメカドックに置いて、駅から電車に乗り込み知り合いのつてのある横浜よりもずっと遠くの、田舎へ行くことにした。

俺がいなくても店は続けられるだろうか?そもそも風見は俺を気持ち悪がっているだろうかと悩みながら平日の昼間だからだろうか、誰も座っていないクーラーも何もなく日差しに晒され続けている駅のベンチに腰掛け、汗だくになって電車を待っていると、不意に誰かに肩を叩かれた。

顔を上げるとなんとそこには風見が立っていた。

突然の出来事に俺は開いた口が塞がらない。

風見はしばらく俺の顔を見て写真を差し出し言う。


「すみません、この人を探しているんですが、何か知りませんか?」


バレていない?!そうか、変装のせいで普段つけている眼鏡がないから風見は俺だと気づいていないのか!
ならまだチャンスはある。ここは冷静に答えるべきだな!


「俺は今さっきここへ来たところなので何も分からないですね」


よし!無難な回答だ俺!これで大丈夫だろう!


「そうですか…ありがとうございます」


そういうと風見は立ち去る…と思いきや、急にベンチに座っている俺の隣に腰掛けた。

ちょっと待て!やはりばれたのか?と冷や汗なのか本物の汗か分からないもものが流れ落ちた頃、風見は落ち込んだ顔をしながらため息まじりに口を開く。


「この人、急にいなくなっちゃったんです… あなた以外の方や、仲間にもきいたりしたんですけど、一切手がかりがなくて…
あなたの背格好が少しこの人に似ていたから追いかけてきたんですけど…」

「そ、そうですか…喧嘩?とかなんですか?」

「いや、多分そうではないんですけど…」


俺はポケットから煙草を取り出し吸いながら風見と話していると、不意に風見がこちらの顔や手元をじっと覗き込む。

「その煙草、この人と同じ種類なんですよ」
「そ、そうなんですか」


「そういえばあなた、さっきから思っていたんですけど背格好だけじゃなくて声や仕草もこの人にー」


その時にまずいと思ったのもつかの間、ホームに言葉を遮るようにけたたましい警笛が鳴り響き、目的の電車が入り込んでくる。俺はすかさずそれに乗り込んだ。

一旦席に着き、改めて自分が何をしでかしたのか実感した俺は大粒の冷や汗を流しながら出発している車内の車窓からベンチを見る。

そこには紫外線にも負けないくらい熱い視線で俺を見つめる風見がいた。
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あまりにも恐ろしくなったので、事情を話して早めに知り合いのアパートの一階に住まわせてもらうことになった俺だが、当たり前だがこの場所はあいつら(松木達や他の店の知り合い)の中の誰にもばれていないようなので、風見にもあいつらにも会うことはしばらくはないだろう。

少し古いがどこにでもある一部屋のアパートだ。管理人が趣味でアパートの周りに向日葵を植えている。それは部屋の窓の背丈を越えるほどに成長しているのだがその状態に文句を言う人すらいないくらい入居者がいないのだ。

逃亡から四日、クーラーもないから窓を開けるも全く涼しくならずに汗だくになって仕事を探していた俺の部屋のドアホンが急に鳴りひびく。

誰なんだ?何も頼んだ覚えもないし住所も教えていないぞと不審に思った俺は、念のために備え付けのドアスコープから外を覗き込む。

そこには汗だくになった風見が立っていた。
なぜだ?!なぜここがわかった?!

色々考える前に俺は居留守を使い風見が立ち去るのを待つ。

ドアホンを何度か鳴らすも、俺が出てこないことに気づいた風見は諦めて立ち去っていった。

その日は俺は1日外に出なかった。

それからは念のために家の中で仕事を探している間も風見は毎日俺の部屋のドアホンを鳴らすのでほとぼりが冷めるまでじっと待った。

なんて恐ろしいやつなんだ。あいつがしつこいことは知っていたのに、なんで俺なんかにしつこくつきまとうのかもじっくり考えたがまったく分からなかった。

そんなことをしているうちに食料が尽きたし、最近風見も来なくなったなとかこんな平日の真昼間に来ることもないだろうと思ったので、外に出て買い物に行くことにした。

眩しい日差しに負けずにスーパーまで歩き食料を買い込み、家路に着こうと大粒の汗を流しながら日差しで熱くなったアスファルトの上を歩いていると、帰り道のT字路でピンクのスバル360に鉢合わせた。

あぁ、なんだかうちの店でもあんな感じのスバルに乗って皆で外回りしたり雪山に遊びに行ったりしたなぁと懐かしくなった俺だが、今は急いでいるのですぐに通り過ぎようとした。その時にふとフロントガラスを見ると今一番会いたくない相手が乗っていた。

風見だ。しかも目が合ってしまった。一瞬、もう俺は逃げられないと悟ったが、全力で走り細い脇道へでる。


「いっつぁん!いっつぁん!!」


しかしそこには先回りして車から身を乗り出して汗だくで俺の名前を叫んでいる風見がいた。こんな田舎道でも小回りが利くようにチューンしていた事を自分でも忘れていた。しかも俺を呼ぶ時の風見の表情は絶対に俺を逃がさないというあの時の表情のような、獣のような表情だったのだ。

瞬間、俺はスバル一台も入り込めないような入り組んだような道を見つけてそこから全力で走り、アパートへ逃げ込み、ドアにチェーンと鍵をかけて玄関でへなへなと力が抜けてそこにへたり込んだ。

本当に逃げられない。そういえば風見はカーチェイスをする時に相手を少しずつ追い詰めて反応を見て楽しむような男だ。なんのために俺を!?こんな事なら気持ち悪がられながら一緒に仕事するほうがましだったとか、もしかして俺に対する仕返しなのか?などと悶々としながら考えていると、今一番聞きたくない音が家中に鳴り響く。

ドアスコープなんて覗かなくても誰が押したのかなんて嫌でも理解している。

俺は黙っていないふりをしてじっと耐える。冷や汗と脂汗ともう混ざりすぎて何汗が分からないものがとめどなく流れ出す。多分ここにいる事はまだ分からないだろうし、いないならいないでまたあのスバルで俺を捜すだろうと思っていた。


「いっつぁん!ここにいるんだよね!?どうして逃げるんだよ!」


ドアを叩きながら風見は必死に俺を呼ぶも、俺は恐ろしくて反応すらできない。


20分ほど経ち、とっくにドアホンも鳴らなくなった。ドアスコープの前にも誰もいない。

安心した俺は立ち上がり、食料品を部屋の冷蔵庫の中に入れようとした。

その時俺はもういないだろうからいいかと思っていたし、数十分もエアコンもない部屋でじっとしているので我慢できずに部屋の窓を開けた。

サウナのような部屋で過ごしていたからか、首回りや背中は汗でじとりとしていた。

ふと、窓のある場所から、ギシギシと音がする。
嫌な予感がした。

振り向くと開けはなしな窓の柵や向日葵を飛び越え、今にも俺の部屋に入り込もうとする風見がいた。

あの時俺は本当に風見を蒔いたと思って安心していたので、こんな事が起こる事を想定していなかった。

「馬鹿!何しているんだ!…」


おい出そうと手をかけた瞬間、俺の手は掴まれて部屋の柵を飛び越えた風見は俺を押し倒しながら部屋に倒れこむ。飛び越えようとした際に付いたのか、管理人の植えた黄色い向日葵の花弁が風見の黒髪についていた。

逃げようとするも、風見は俺の上に倒れこんでいるし、俺の手首は風見にしっかりと掴まれているので逃げられない。

気まずい空気が部屋中を支配する中、最初に口を開いたのは風見だった。


「ねぇ、どうして急にいなくなったの?」

「いや…書き置きに病気だからって書いただろう?!なんだよ!」

「本当に病気だったらさ、逃げたりとかこの間みたいに嘘をついたりしないよね?」


確かにそうだ。言葉に詰まる。

他にいい言い訳も思いつかないと思っていると、何故か本音が出てしまう。


「な…なんで…ここまでするんだよ…俺さ、お前に…」


もう俺は頭の中は混乱するし、一番聞かれたくない事を聞かれたので涙が出てきて後半は蚊の鳴くような声になっていた。


「…何だよ!俺をからかって反応を楽しむのもいい加減にしろよ!出て行ってくれ!」


もう自分でもいっぱいいっぱいだった。どうすればいいのか分からない。気がついたらまたいつものように思ってもいない嫌味を風見に言ってしまう。
本当は風見が無理やりにでも俺を連れ戻そうとしてくれた事は胸が張りさけるくらい嬉しいのに、また俺は…


「どうしてごまかそうとするんだよ!
いつもいっつぁんはそうじゃん!勝手に考え過ぎて、こうやって自分から芽を潰そうとして…経営や仕事については俺、いっつぁんの事を頼りにしているのに…」


風見の目を見ると一雫の涙が今にも零れ落ちそうになっていた。


「か…風見…」


言いかけたその時、風見は掴んでいた手首を離し、離した腕を俺の首の後ろに回す。


「もうどこにも行かないでよ」


俺の腹に顔を埋めて泣き出した。俺達は三年程の付き合いがあるが、こんな弱々しい所をみたのは初めてなのでつい戸惑い、何も言えなくなった。

俺を抱きしめる風見の腕はかなりキツくなっていく。シャツが風見の涙で濡らされていく。


「俺もいっつぁんの事が好きなんだよ…!専門にいた時からさぁ
!課題忘れた時だって、勉強分からないから教えてって言ったのも…本当はいっつぁんと二人でいたいから嘘をついた事もあったんだよ」

「風見、でもな、お前と俺の"好き"の気持ち
は少し違うんだよ…だから…」

「ううん、俺もいっつぁんと同じ気持ちなんだよ」


そう言うと、風見は体を震わせながら顔を赤くし、俺の頬にゆっくりとキスをする。

キスというか軽く触れただけのような気がしたが、多分風見にとってはこれが精一杯なのだ。

数分の沈黙が続いた。互いに涙で顔はぐちゃぐちゃになっていた。

キスの後、いたずらっぽくにこりと笑うと、風見はすぐに俺の手を引いて立ち上がる。


「一緒に帰ろう!」


駐車場へ着くまで、俺達はお互いの顔を見ることも、言葉を交わすことも出来なかった。

車に乗り込み、そのままメカドックへ向かうと思いきや、風見が急に今までの沈黙を打ち破るかのようにふと切り出した。


「あのね」

「...なんだよ」

「これだけは言わせて...俺ね、あの時すごく嬉しかったんだよ」

「だからあの時、嬉しすぎて何もいえなくなっちゃったんだ」


そういって頬を赤らめてうつむいた風見は、鍵を回しエンジンをかけ、メカドックへ走り出す。

出発する頃に日が沈みかけているのに気がついた。

茜色の夕焼けの光はフロントガラス越しに俺達を祝福するように照らしていた。









インプルエンザ・プラダンス

二次創作物を載せるサイト/絵中心。腐向けあります。

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